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2012年8月16日木曜日

That’s Why God Made The Radio / The Beach Boys

 
 妻とビーチボーイズを観に千葉のマリンスタジアムまで行って来ました。

 ぼくがビートルズを聴き始めた中学生の頃,すでに時は70年代で,メンバーはソロ活動に入っていました(Band on the Runが大ヒットしていた頃で,当時動くビートルを観るためにはフィルムコンサートなる集いに足を運ばなければなりませんでした。)。60年代のことでぼくが毎週リアルタイムに体験していたことといえばウルトラセブンぐらいしかなく,長男で周囲に年上の知り合いもいなかったぼくは,ビートルズと互いに影響を与えあいながら,Pet Soundsやその後のSmile Sessionにまでに至るビーチボーイズの音楽的な成長と挫折の物語を目の当たりにすることはありませんでした。正直に告白すると,ブライアン・ウィルソン(Brian Wilson)という巨大な才能をはっき
りと意識するようになったのは,1998年のImaginationからで,その頃にはすでにシベリウスやブルックナーを聴く歳になっていました。(一流の芸術作品にはみな共通することだと思いますが,)ブライアンの書く音楽は,I Get Aroundでも,Surfer Girlでも,  楽しくて明るいのに,いつもどこか寂しげで,瑞々しい音色の中から,同時に,とめどない寂寥感が溢れてきます。2005年のクリスマスアルバムWhat I Really Want For Christmasなど
どこを聴いても一聴して楽しく,底抜けにポップなのに,聴き進んでいくうちに何か家に帰りたくて仕方がなくなるような年末の耐え難く寂しい気分に囚われてしまうのは,ほとんど魔法そのものです。そして,夕映えの美しさにも似た2008年のThat Lucky Old Sunを経て,昨年には,まさか完成品がでるとは思ってもみなかったSmileまで発表され,その上,今年は50周年だからといって,新曲で固められた新作まででてくるなどそれ自体奇跡のようです。

 新作のThat’s Why God Made The Radio(邦題「神の創りしラジオ」),1942年生まれで今年70歳という年齢の人間の想像力がここまで素敵で,年月を経ても宝石のように同じ輝きを放っていることが不思議でもあり,長いバンドの歴史を振り返って,ついついいろいろなことを考えてしまう聞き手には一層染みいってきます。出だしのハーモニーから,ボーナストラックとして入っているDo it againの再録までとても緻密に設計されていて,仕掛けも多いアルバムですが,基本の色調は,ここでも夏の終わりで,何か諦念さえ感じさせるようなの季節の終焉です。

 コンサートの始まる前のぼくの気持ちをありのまま素直に表現すれば,夏だし屋外だし,音の楽しさでどうしようもないぼくらの日常を忘れさせて欲しいという気持ちが期待の半分,でも,もう半分は,消えゆく夕陽のような音の寂しさでなかなか思うにまかせないぼくらの日々の生活を慰めてもらえないかという気持ちでした。もちろん,夜とはいっても,暑い最中に球場で行われるコンサートですから,余り細かなことと言っても仕方ないし,楽しいひとときを過ごせれば,それ以上はないのですが,それにしても,メンバーの年齢からいって,次の機会はないなと観客の誰もが思っている中で,そんなセンチメンタルな想いとはまったく無関係に,立て続けに繰り出されるヒット曲のオンパレード。文字通りあっという間の90分間でした。今さらながら,ビーチボーイズには,ブライアンを中心にしたレコーディングセッションバンドとして顔と,マイク・ラブを中心にしたライブショーバンドとしての顔のまったく違う2つの面があること,そして,その一見水と油のように異なる要素の不均衡さと危うさ,緊張感こそがビートルズとの切磋琢磨以上にバンドをここまで走らせてきた原動力だったのではないかなどとふと考えた帰り道でした。

 2012年(平成24年)8月16日 木曜日

 
 
 

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