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2011年4月17日日曜日
ガンバラナイけどいいでしょう
/吉田 拓郎
70年代から拓郎をずっと聴いてきました。「結婚しようよ」は当時小学生だったぼくも口ずさんでいました。中学生になってオールナイトニッポンを聴き始めた頃,ラジオから繰り返し「シンシア」が流れていました。初めて武道館に行ったのも拓郎のコンサートでした。拓郎の唄はいつも私小説で,日記を見ているようでしたが,若い頃の滅茶苦茶な拓郎も好きだったし,聴いている方も年齢を重ねる中で,30代,40代,50代と拓郎の肉体と精神が変化していく様をずっと見続けてきました。
一貫しているのは,拓郎がずっと孤独と向き合って,他者からの疎外感を歌い続けてきたことです。 ぼくは,拓郎を聴くたびに集団の中で自分が少数になることを恐れない特別な勇気をもらっていました( 私見では日本のソングライターの作る多くの作品にチャチな感じがするのは,音楽の質そのものが低いこともさることながら,つまるところ,いい歳をしていても,自立していない,つまりは,子供の様な大人の精神構造が伝わってきてしまうからではないかと思っています。)。拓郎をいつも聴いていた訳では決してありませんが,(「AKIRA」で歌われているように,)「生きていく事にとまどう時」「夢に破れさすらう時」「明日を照らす灯りが欲しい時」「信じる事をまた始める時」ぼくにとって拓郎の音楽は,夕暮れの食卓に並ぶご飯と同じくらい大切で必要なものでした。
60代になった拓郎から届いたアルバムが「午前中に…」です。全曲作詞作曲の新作では,やはり自然体で現在のありのままが歌われていますが,全編思いもかけないような言葉の転調が続きます。一曲目は,「ガンバラナイけどいいでしょう」。曲の終わりのところで,「がんばれないけどいいでしょう。私なりってことでいいでしょう。」と歌われるのにはドキッとさせられました。
今日本全体が「がんばろう」コールに包まれていますが,こんな唄の方が,かえって,被災された方や,本当に傷ついてしまった人の心には届くような気もします。
「午前中に…」三曲目の「フキの唄」もいいです。今日本社会全体を重苦しく覆っている不安感を撃ってくれるように感じられます。
「僕が子供だった頃 日本は貧しくひ弱で
お金もなく肩寄せあって生きていた
物が足りないのは みんな一緒だし普通だし
何よりも 平和が大切でありました。
僕はフキが大好きです 毎日でも食べたくなる
フキは茎だけでなく 葉っぱもとてもおいしくて
僕は竹の子も好きです 毎日飽きることはなく
柔らかいとこだけでなく かたい根っこのあたりも大好きです。
短い旬の味は その季節まで待てばいい
人の世は 常に満たされなくていい
何かが足りないからと それが今ここになくても 大丈夫
心が貧しくならなけりゃ
僕はフキが大好きです 毎日でも食べたくなる
フキは茎だけでなく 葉っぱもとてもおいしくて
僕は竹の子も好きです 毎日飽きることはなく
柔らかいとこだけでなく かたい根っこのあたりも好きなんです」
2011年(平成23年)4月17日 日曜日