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2011年3月12日土曜日
ぼくが司法試験に受かったのは1995年(平成7年)の秋でした。この年年始には,阪神淡路大震災があり,その余波も静まらないうちに,週明けの月曜日に地下鉄サリン事件が発生して,当日通っていた答案練習会が途中で中止されたことを昨日のことのように憶えています。
昨日ぼくは副座長を務めている川崎市の地域ケアの連絡会議に参加していて,古いビルの2階で激しい揺れに遭遇しました。幸い家族にも事務所にもこれといった被害はなく,川崎駅前のタクシー乗場で3時間タクシーを待ったぐらいのことで,その日のうちに帰宅することもできました(途中停電してしまった地域が真っ暗で,タクシーのヘッドライトしかなく,信号機も消えていたのは少し怖かったです。)。
しかし,その後つぎつぎとテレビの画面に映し出される光景は,この世のものではなかったですね。これから本格化するであろう救出活動に期待し,一人でも多くの方の命が救われることを祈る以外にありませんが(阪神淡路大震災のときも,法律家が必要になったのは,もう少し後になってからのことだったそうです。),余震も繰り返されていますし,当分は不安で落ち着かない日々が続くことになりますね。
ぼくが,フィル・コリンズ(Phil Collins)や, ジェネシスのライブを武道館で観たのは,阪神大震災からさらに10年近く前の80年代中盤のことだったと思います。ソロでは,One More Nightを含む三枚目のNo Jacket Required,ジェネシスでは,Invisible Touchが出た後で,MC用に日本語の書かれたカンペを手に持って喋る親しみやすいキューピーちゃんのようなキャラと,一世を風靡したバリライトによる照明の下,文字通り光り輝いていました(寝ずに見続けていた85年のライブエイドでも,イギリスの会場から,一人コンコルドでアメリカの会場に移動して,クラプトンが演奏しているところになだれ込み,続いて,ボンゾの代わりにレッド・ツェッペリンのドラマーとして「天国の階段」を演奏したところは,後のDVDには収録されなかったこともあって,間違いなくハイライトのひとつでした。)。
そんなフィル・コリンズの8年ぶりの新作が本作です。全編よく知られたモータウン・ナンバーのカバーアルバムで,なにしろモータウンですから,魔法のようなポップス集です。そのため昨年9月このアルバムが出るとすぐに購入して,それこそ保育園の行き帰りなどに繰り返し楽しませてもらっていました。
ところが,このアルバム,聴いているとすごく楽しいアルバムなのですが,何かひとつひっかかるというか,もう一息勢いがないというか,心底からは解放されない,そんな音が鳴っているような気がしてなりません。ライナーを読んだりすると,この間フィルは,脊髄を痛めて,以前のようにはドラミングできない身体になってしまっているとのことで,一部では手にスティックを縛り付けて叩いているとのことです。今ひとつノリの悪い感じがするのはそんな事情も影響しているのかも知れません。さらに,ネット情報によれば,今月に入って,自ら音楽活動からの引退の表明もしたようです。サービス精神に溢れた人だし,何より彼にとって音楽は自分自身と同一のような存在でしょうから,現在の彼のコンディションが普通でないことは誰の目にも明らかです(不謹慎ですが,バーンスタインが指揮者活動からの引退を表明したときのことを思い出してしまいました。)。
そう考えると,今回のアルバム,タイトルからも,ジャケットの写真からしても,原点回帰というよりは,むしろ,なにかまとめに入っているようにも感じられます。そして,音楽の内容は,現在ある自分のコンディションの中でも,できる最善を考えて,それを精一杯提示しているように聞こえるのです。Going Back。もうすでに他人の何百倍もの成功を手にし,他人の何十倍もの人生を生きてきた男がまだ何か付け足さなくてはいられなくて,懸命に歩こうとしているそんなアルバムです。
2011年(平成23年)3月12日 土曜日